PARC TOP池上彰の世界の歩き方 第5回

池上彰の世界の歩き方



第6回 今後発展する国を見分ける池上流の方法とは

 これまで世界の多数の国を回ってきました。開発途上国の貧しさに直面すると、悲しくなりますが、「これから頑張って」と励ましたくもなります。この国は、これから発展するだろうか。実は私流の見分け方があります。それは、書店の数と、若者が本を読んでいるかどうか、という観点です。

 いまから15年前の2000年。ベトナム戦争についての歴史を現地で調べようと、ホーチミン市を訪れました。真夏の暑い盛り、軒を連ねる店の店員たちは、店内の日陰に入っています。てっきり昼寝をしているものと思っていたら、なんと、どの店も、若者たちが読書をしているではありませんか。他の熱帯の国なら、みんな昼寝しているのに……。これには驚きました。
 その後、近くの書店に入った途端、若者が万引きして店員に取り押さえられる現場に遭遇しました。一体どんな本を万引きしたのか。転売すれば高く売れる本か、それともHな本か。と思って見たら、英語の参考書でした。
 本を買う金がないが、勉強したい。そんな思いが伝わってきて、悲しくなりました。
 でも、これだけ若者たちが本を読んでいる。この国は発展するぞ……。そう思ったのです。あれから15年。ベトナムは大きく発展しました。

 実は当時、ベトナムの近くの別の国も取材に訪れました。その国の名誉のために国名は出しませんが、そこは首都にも書店がありませんでした。当然のことながら、読書をしている人の姿は全く見かけません。書店はないのか。ホテルのレセプションで尋ねると、一軒だけあるという。ようやく見つけた書店は、外国人のバックパッカーが読み終えたペーパーバックを古書として売る古本屋でした。並んでいるのは英語の本ばかり。その国の言葉の本はなく、店内にいるのは外国人ばかりでした。
 この国の発展はまだ、まだ、だなあ……。あれから15年。この国の名前は、国際ニュースに登場することがありません。経済は遅れたまま。眠ったような国です。

 その後、中国国内を長期に取材したときのこと。北京や上海など、各地の書店は若者たちで溢れていました。とりわけ学習参考書のコーナーは立錐の余地もないほど。中国は発展するぞ……。そう思って15年。中国は、ご存じの通りになりました。

 いまから数年前。ミャンマーに取材に行きました。大都市ヤンゴンでも大きな書店はないのですが、小さな書店は人でいっぱい。陳列できない書籍は道端に並べられ、大勢の人が買いたい本を探していました。私の見立ては、もうおわかりですね。これからミャンマーは、急速に発展すると予言しておきます。

 中東にも取材に行くことが多いのですが、アラブ諸国では、『コーラン』以外の本を読んでいる人を見かけません。空港の待合室で本を読んでいるのは、欧米からのビジネス関係者や観光客だけ。地元の人たちはおしゃべりに夢中です。
 ところが去年、イランに行ったときのこと。こちらはアラブではなくペルシャですね。なんと、『コーラン』以外の本を熱心に読んでいる人がいるではありませんか。
 イランは、核開発が凍結され、これから欧米の投資が入ってきます。イランは発展する。これが私の見立て。アラブの人たちには、伝統的にペルシャ恐怖症があります。それもむべなるかな、です。

 翻って、我が日本。私は大学生だった四十数年前。海外のメディアは、「日本人は電車の中でみんな本を読んでいる」と驚きの報道をしたことがあります。当時の私は、「何を驚いているのだろう」と思ったものですが、その後、日本は高度経済成長を迎えます。
 そして、いま。電車の中で、日本の若者たちはスマホに夢中。あるいはゲームに夢中で、本を読んでいる人を見つけるのに苦労します。
 さて、今後の日本について、私がどんな見立てをしているか、もうおわかりですね。悲しいことです。


【連載 バックナンバー】
第1回 「世界」を伝えるということ
第2回 少女たちの笑顔の裏に
第3回 真の援助とは
第4回 沙漠のハエは目に集まる
第5回 空から海賊を見分ける方法とは
第6回 今後発展する国を見分ける池上流の方法とは
第7回 「海外に行きなさい」とダライ・ラマ
第8回 パリのテロの現場から



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